植物のなかには、一度名前を聞いたら絶対忘れないという程、その特徴をよく表したものが少なくありません。ミツマタもその一つです。
ミツマタは、庭木としてよく植えられているジンチョウゲ(ジンチョウゲ属)に非常に近い中国原産の木で、 どちらも早春に花が開きます。ジンチョウゲの花には強い香りがありますがミツマタはそれほど香らないようです。 いつだったか、四国の松山で学会があり、そのあとのエクスカーション(見学旅行)で面河渓へバスで行く途中、 不思議な枝ぶりで黄色い花をつけた潅木の畑が続き、何の木だろうと思っているうちに、 3本、3本と枝分かれしているのに気がつき、ミツマタと分かりました。 名前は知っていたのですが、実物を見たのは初めてでした。
ご存じの方も多いと思いますが、ミツマタは、ガンピ(ジンチョウゲ科ガンピ属)やコウゾ(クワ科) と同じように、和紙の材料として有名です。 いずれも強い靭皮(じんぴ)をもっていますので、枝を折ることが出来ても、 皮を引きちぎるのは困難です。紙を作るときには、大きな鉄のナベの上に枝を束ねたものを立て、 大きな、高さ2メートルくらいの木のオケをすっぽりとかぶせて蒸気で蒸し、 皮をはぎます。大阪府吹田市の万博記念公園内にある国立民族学博物館の中には、 この道具が展示してありますので、ご覧になった方もあると思います。
ミツマタは製紙用に広く植えられていて、特に強度が求められる紙幣用として重要です。
そのせいか、図鑑には英名 paper-bush とあがっています。
また、ミツマタには花弁が朱色をした「ベニバナミツマタ」という品種があります。 京都府立植物園で見かけましたので、紹介しておきます(右写真:京都府立植物園(2000.4.2))。